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Commentary

日本のビジネスマンに中国経済への悲観的見方が深まる

伊藤亜聖
東京大学社会科学研究所准教授
経済
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富士山会合ヤング・フォーラムのアンケート調査は、日中関係の現状を反映する結果となった。写真は大連市と北九州市の友好都市関係5周年を記念して建設され、1987年に竣工した「北大橋」。(2024年8月27日、丸川知雄撮影)
富士山会合ヤング・フォーラムのアンケート調査は、日中関係の現状を反映する結果となった。写真は大連市と北九州市の友好都市関係5周年を記念して建設され、1987年に竣工した「北大橋」。(2024年8月27日、丸川知雄撮影)

解題

2024年12月7日~8日に清華大学国情研究院と東京大学中国イニシアティブとの共催による「第4回清華大学・東京大学発展政策フォーラム」が東京で開催された。今回のテーマは「競争と協力――グローバルな不確定性のもとでの日中経済貿易関係」である。

12月8日には東京大学にて公開シンポジウムが開催された。そのシンポジウムで行われた講演の概要を順次紹介する。

これから紹介するのは日本経済研究センターの富士山会合ヤング・フォーラムが2024年10月に約3000名の日本人ビジネスマンに対してインターネットを通じて実施したアンケート調査の結果である。調査対象は民間企業で係長以上の役職にある人であり、2012年から同様のアンケートを続けてきた。今回が第7回である。

危機感が募る調査結果に

最近、言論NPOが実施した調査の結果が発表され、そこでは日中双方とも相手国に対する印象が一層悪化していることが明らかとなった。それでも日本人の約六割は日中関係が重要だと答えていた。今回の結果によると中国人のうち日中関係が重要だと回答する人が26%へ大幅に低下した。言論NPOの工藤泰志氏は「日中両国は戦略的互恵関係の信頼基礎を失い始めている」と危機感を表明している。

富士山会合ヤング・フォーラムのアンケートで、中国の市場が日本経済にとって重要かどうかを問うた質問に対して、重要であり、将来も重要であり続けると回答した日本人ビジネスマンの割合は29.6%から18.6%に低下した。2012年からこの調査を続けているが、ここまで大きく下がったのは初めてである。また10年後の中国経済に対して、5~6%の成長を続けていると見る人の割合が25.5%から14.7%に下がった。中国経済に対する認識が大きく変化している。

中国政府による「国家の安全」を重視する姿勢が日本のビジネスマンの対中認識に影響を与えている。中国における改正反スパイ法の施行に関連して、勤務先企業における中国への出張について、回答者の46.2%は止めるべきだと回答した。

一方、会社での「台湾有事」に対する準備に関しては、2022年の調査では回答者の13.1%が会社で従業員の避難などの計画をしていると答えた。しかしこの比率は今回の調査では14.1%への微増にとどまった。つまり、台湾有事に対する危機感はあっても、実際には行動を伴っていない可能性がある。

総じて、回答者は中国ビジネスに対するリスクを感じており、中国との関係を深めるべきだと回答した者は5%にとどまった。但し、第三国における中国企業との協力を深めることに対しては33%が肯定的な回答をした。

長期的な傾向になるかは注視が必要

なお、この調査が行われたタイミングにも注意を払う必要がある。調査をネット上で実施したのは2024年10月1日から3日であった。8月末に中国軍機による領空侵犯事件があり、9月18日には深圳で日本人男児が刺殺される事件があった。

回答者の属性による違いを見ると、若年層の方が概して中国に対して好意的である。また、ハイテク産業では経済安保強化の影響が大きい。駐在や生活した経験がある場合は中国への認識が変わる傾向がある。

過去の調査結果を振り返ると、2020年の調査では、アメリカのトランプ政権の対中政策をめぐって、デカップリングに反対する者と賛成する者とが半々であった。また、2022年には中国と台湾がCPTPPに加入申請したタイミングで調査が行われたが、41.2%が中国のCPTPP加入に、積極的な態度を示していた。当時はまだ貿易を通じた関係の構築が重視されていたと思われる。

最近、中国政府が日本人の中国への短期渡航に対するビザを免除することを発表した。このことは日中間の人的交流が回復することにつながると思われる。一方で民間経済界においては日中経済交流に対する意欲が弱まっているのが現状である。日中関係を展望する際に、経済界に何らかの原動力を求めることは難しいように思われる。

(2024年12月8日の東京大学における講演に基づいて丸川知雄が記録をまとめた)

※富士山会合ヤング・フォーラム「日中関係についてのアンケート」の第7回(2024年)調査概要は下記からダウンロードできます:
日本語版:https://www.jcer.or.jp/wp-content/uploads/2024/12/MFD-YF_survey_7th_Japan-China_JP20241218.pdf
英語版:https://www.jcer.or.jp/wp-content/uploads/2024/12/MFD-YF_survey_7th_Japan-China_EN20241218.pdf

※調査結果および一部コメントは下記の紙面でも紹介されています:
日本経済新聞、2024年12月18日、本紙紹介記事(印刷版のみ)。
Nikkei Asia, December 20th, 2024. Many Japanese businesspeople wary of operating in China
https://asia.nikkei.com/Business/Business-trends/Many-Japanese-businesspeople-wary-of-operating-in-China-survey-finds

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